『愛なき世界』 三浦しをん 著 を読んで
またまたお久しぶりです。なかなか読み終えれませんでしたがやっと読み終わりました…!(時間がなかなか取れなくて)すごくおもしろかったです…!
三浦先生はとても好きな作家でまほろ駅前シリーズとか『舟を編む』もお気に入りなんですが、この話もとてもよかったです。冒頭はある洋食屋「円服亭」の住込み店員の話から始まるので この人が主人公かと思ったんですが、そこに時おり食べにくるある団体の人達が主軸の話でした。
以下ネタバレ(思いきりしているので注意です)
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この人達はスーツをいつも着ているのに会社勤めではないようで正体不明なんですが、円服亭がデリバリーのサービスを始めてオーダーが彼らから入り、近所の大学院の研究生や先生だと分かります。
その中に、眼鏡をかけた植物を研究している本村さんという女の子がいるんですが、食堂の藤丸くん(店員)は彼女に恋をします。彼女は他の大学から転院していて、植物が大好きでシロイヌナズナの葉がどうやったら大きくなるのかを研究しています。
藤丸君はそれまでは植物には特に興味がなかったけれど、時々デリバリーに行くたびに本村さんが見せてくれた顕微鏡や楽しそうに植物の事を話す様子に心惹かれてだんだんと興味を持つようになり、たまに手伝ったりもするようになりました。
そして店主さんに「研究の邪魔を絶対にするな」と釘を刺されていたけれど、ある日想いを抑えきれなくなり、ポロッと告白してしまいます。
本村さんは「何日か待ってもらえますか」と言って、数日後にデリバリーに藤丸君が行った時に別の部屋に招き、顕微鏡でシロイヌナズナの細胞を見せてもらいます。
彼がそれを覗くと、暗闇に銀河のような光る点が沢山映っていました。「まるで宇宙のようですね」と彼は言います。
彼女は「こういう研究をしています。そして私はそれに一生を捧げるつもりです。だからあなたの気持ちには応えられない」と言って謝ります。
彼はなんとなく予感はしていたけれど、気落ちして店に帰ります。でも、彼は屈託がないので次にデリバリーの時や店で会っても普通に彼女に接します。
(店長や常連さんにはバレてからかわれていましたが)
……と言うような話なのですが、三浦先生の一つ一つを丁寧に積み重ねて大きな成果にしていくという手順がすごく好きなんですよね… 教授の松田先生もキャラクターがとてもいいし(まるでスーツを着た死神のようだという)、彼が学生の時のエピも大泣きしてしまいました。(私の中で松重豊さんがすごく当てはまるんですが)
一つ一つ積み重ねていくエピは『舟を編む』でもされていましたが、本当に気の遠くなるような手順を地道に重ねていく描写が本当に素晴らしい… (私もこんな風に書けたらいいんですが)
そしてタイトルについてもラスト近くで言及されていたんですが、藤丸君のその時のセリフがとてもよかった。
ヴィンランド・サガという漫画でもクヌートが愛について悟るシーンがありましたが、
自然=愛という考えは美しいと思います。私も小さいころつらい目や悲しい事に遭った時、下を向いて歩いていると道ばたに可愛らしい花や美しい自然に時々目を奪われました。
そんな時、なんとなく「神様はいるんだな」と思ったり、「この世界はつらい事もあるけどすばらしい」と感じていました。
そんな風に思った事を藤丸君は本村さんに伝えて、「植物は愛がない世界に生きているとあなたは言ったけど、愛はあります」と言っていました。
「植物は光を食べて生きて、それを動物も食べ、その動物を食べる動物もいて……みんな光を食べて生きている」とも言っていたんですが、彼女はそんな言葉に心を動かされていて、結果的に2回彼を振ってしまったけど藤丸君はいつか彼女を振り向かせる事ができるんじゃないかな…と思いました。「植物より下でもいいし、今まで通り研究していていいから結婚してください」とかいきなりプロポーズしちゃうかも…などと想像してしまいました。
松田先生の友人とのエピソードは本当にいいので、最後まで読まなくてもそれだけでも読んでほしいなと思います。
出てくるキャラクターの2、3人くらいしか言及できなかったけど、みんな特徴があって(サボテンが大好きな院生の男子とか)、でも調和していて良い奴らなので本当におもしろいです。よかったらみんな読んでほしい…!本当に。
追記:そう、これは書いておかないとと思っててうっかり忘れてましたが、ハードカバーの表紙が素晴らしく美しいです…!
写真かと思ってたら、よく見たらイラストでした…めちゃくちゃ細かいし綺麗です…表紙だけでも見てほしい…是非に。